水文データに関する不確実性について

木村ら(2017)は、水文・水資源学に関連する地表水流れの数値解析技術を学際的に俯瞰し、それらの特徴や現状の課題点についてとりまとめている。その中で各分野に共通する課題の一つとして、計算に用いる入力データの整備に関する問題があることを挙げている。例えば、降雨、流出、水位、流量等の水文データの不確定性にどう対処するか、というテーマである。

だが、そもそも水文データの精度ってどの程度なのだろうか?

これに関しては、佐合(2008)により分かりやすく整理されており、下記に示しておきたい。

さらに、最近の新しい気象観測網に関する課題に関しても、最近の文献から引用しておきたい。

水文量の不確定性の総合評価について

佐合(2008)によれば、

  • 雨量、流量など個別の各水文量の誤差や不確定性について扱ったものは多いが、一連のプロセスを通しての水文量の不確定性の評価はあまりなされていない
  • 水文量の不確定性が計画値や管理値にどの程度影響するのか総合的に示しておくことは水文量を河川計画や管理に生かしていくうえで不可欠
  • 水文データの誤差について、誤差伝播の法則を用いて総合的に評価
  • 雨量から流量までを一貫して考えた場合、流出計算から求められる流量値は約25%の誤差を有すること、誤差のもっとも大きな要因は流出率であり約19%であることが示された

これらの誤差に関して、近年の解析技術の向上やデータの蓄積を踏まえた最新の情報が知りたいところである。

IoT・クラウドソーシングを利用した新たな地上気象観測網と課題について

流域治水に関しては、今後、市民も含めた様々な主体が関係するなかで、データの品質については、下記の点が重要になると考える。

今後、気象データについては、以下のクラウドソーシングや市民科学を応用した新しい観測網が台頭してきており、これまでになかった超高密度・長期運用可能な気象観測取得方法の構築が望まれている(田中ら、2018)。

  • クラウドソーシングとは、不特定多数の市民の寄与やオープンデータ等を用いてタスクを達成するプロセス
  • 市民科学とは専門家ではない一般市民が科学研究に参画すること

田中ら(2018)は、これについて以下の課題を挙げている。

市民科学・クラウドソーシング型のデータ取得は、超高密度、安価な観測網構築が可能というメリットの半面、データの取得過程を把握できずデータ品質が玉石混交となるデメリットもある。データの品質管理の効率化は次世代型観測普及の課題といえる。

引用文献

佐合 純造:水文量の不確定性の総合評価とその活用策、 水文・水資源学会誌, 2008, 21 巻, 5 号, p. 353-360

田中 智大, 渡部 哲史, 小槻 峻司, 林 義晃, 丸谷 靖幸, 峠 嘉哉, 山崎 大, 木村 匡臣, 田上 雅浩, 江草 智弘, 橋本 雅和, 仲吉 信人,:最前線の水文・水資源学, 水文・水資源学会誌, 2018, 31 巻, 6 号, p. 509-540

木村 匡臣田中 智大安瀬地 一作中谷 加奈山崎 大吉岡 秀和:地表水流れの数値解析技術に関する分野横断的視点から見た特徴と最前線, 水文・水資源学会誌, 2017, 30 巻, 5 号, p. 307-334